ツーリング・レポート

NO.007

「真夏のHARD DAY'S PADDLING」
2001年7月21日(土)
石廊崎

〜ヒロクマ、イローラーになる〜


麻賀さん(左)とNCKの村田さん(右)。ベテランカヤッカーはばっちり決まってます

 ことの発端は「9月のクイーンシャーロット・ツアーに向けて、特訓メニューをお願いします」と西伊豆コースタルカヤックス(以下NCK)の村田さんに頼んだことからだった。
 しばらくして村田さんからメールが届いた。「朝4時半に店に集合。石廊崎港を朝6時に出艇し、松崎まで向う。途中で日が暮れたら、ヘッドランプを付けてナイトパドリングで松崎を目指す。」こちらのリクエスト以上の内容だった。
 前日の7/20から箱根の強羅にある会社の保養所に、嫁さんの両親を連れて遊びに来ていた。それでも朝4時半に西伊豆松崎ということは、遅くとも午前2時半には強羅を出発しないと間に合わない。そこで前日は晩飯を食べ、温泉に入ったら即寝床へ。
 午前2時、目覚ましの音で目を覚ます。当然外は真っ暗。すばやく準備をして嫁さんと強羅を出発。子供達はじじばばにお任せだ。
 こんな時間、箱根の山道はすかすかだと思ったら大間違い。週末ということもあって、いわゆる“走り屋”たちが愛車を持ち寄り、道路のあちこちでたむろしている。対抗車線をチューンアップした車がばんばん走り抜けていく。「こんな奴らに混じって走るのかあ、うっとうしいなあ」と思いつつ国道1号の下りに差し掛かった時、さらにうっとうしい奴が行く手をふさいだ。大型トレーラーだ。しかも3台連なってきっちり時速40キロくらいで走っている。峠の下り道だから見通しも悪く、追い越しもできない。箱根八里は馬でも越すが、越すに越せない大型トレーラーなのである。
 やがて私の車の後ろに走り屋のあんちゃんたちの車が連なり始めた。さすがの走り屋たちも大型トレーラー3台を峠の下りでぶち抜く度胸はないようで、しぶしぶ付いて来る。やがて峠を降りきり、国道も2車線になり、ようやく牛歩の列から解放される。おかげで時間をかなりロスしてしまった。大急ぎで136号を走る。ここから先はさすがに何もなく、なんとか4時35分にNCKに到着。

 すでに村田さんと他の参加メンバーが揃っていた。今回は我々夫婦の他に、クイーンシャーロットに一緒に行く麻賀さんと西沢さんにも加わってもらった。村田さんが「どうせならクイーンシャーロット組みんなで漕ぎましょう」ということで声をかけてくれたのだ。麻賀さんはNCKの常連客の中でも最も名の知られた、いろんな意味ですごいシーカヤッカーである。西沢さんはカメラマン&ライターで、「Outdoor」「カヌーライフ」といった雑誌のシーカヤック関連の記事を中心に活躍されている。お2人は前日から店内に泊りこんでいたのだそうだ。
 装備を確認し、食糧を買い込みいざ出発。車はNCK専属のセドリック。この車に5隻のシーカヤックを載せ、車内は前が2人、後ろが4人。1人多いのは村田夫人の佐知子さんが乗っているからだ。我々が石廊崎を出発した後、車を松崎まで戻さなければならないので、そのためにわざわざ朝の4時からおつき合いいただいていたのだった。ありがたいことである。
 6時過ぎに石廊崎着。そもそもなぜこんなに早い時間に出発するかと言うと、石廊崎は観光地のため、8時過ぎ頃から観光船の出船などで港が忙しくなり、とてもシーカヤックを持ち込んで出発できる状態ではないからだ。早朝なら人もいないので、静かに心置きなく出艇の準備ができる。


早朝の石廊崎港から出艇

 各自の乗る船は、私がウォーターフィールドの不知火、嫁さんは同じくウォーターフィールドのU-YAK、村田さんはニンバスのソランダー、麻賀さんがヴァリーのアヴォセット、そして西沢さんがニンバスのテルクワである。
 こんな時間でもぐんぐん気温が上がってきている。いざ出発というところで、空からぽつぽつと雨が降ってきた。やがて雨粒が大きくなり、スコールのような本降りになった。気温が高いのでむしろ気持ちいい。如何にも伊豆最南端らしい歓迎だ。雨の中、静かな石廊崎の湾の中を5隻のカヤックが進んで行く。
 やがて湾の出口に近付くに連れ、うねりが入ってくるようになった。いよいよ黒潮の中に漕ぎ出すのである。
 湾を出てすぐ右上に石廊崎のシンボルである白い灯台がそびえている。あっと言う間に伊豆最南端である。NCKでは石廊崎をシーカヤックで越えた人間に対して、“ケープ・イロウナー”の称号を勝手に与えている。これは南米最南端で世界でも最難関の海域と呼ばれるホーン岬を回航した人間に与えられる“ケープ・ホナー”にちなんだものである。
 私の嫁さんは7/8にすでに石廊崎を越えており、不本意ながら私は嫁さんの後塵を拝したことになる。海の上でそんな話をしていると、村田さんと麻賀さんが目を合わせにやりとする。
 「ヒロクマさん、NCKでは“イロウナー”の他に“イローラー”ってのもあるんですよ。やってみませんか?」
 “イローラー”、それは石廊崎沖でエスキモーロールに成功した人間に与えられる称号である。確かに決まればかっこいい。しかも石廊崎と言えば観光名所だから、昼間の時間帯ならギャラリーが見守る中でのパフォーマンスとなる。しかし失敗すれば衆人監視の中で沈脱(転覆して起きあがれず船から脱出すること)しなければならず、これは相当みっともない。
 私はこの時点ではロールを習ってはいたものの、成功率はまだ50%くらいだった。しかも荷物を積んだ状態で、岸から離れたところで行うのはまったく初めてなので、一瞬躊躇する。
 早朝でしかも雨ということで幸いギャラリーはおらず、失敗しても恥ずかしい姿をさらすことはない。それに村田さんを始めベテランカヤッカーが揃っているので、救助体勢もばっちりだ。


石廊崎沖はどしゃ降り。この中でロールに挑戦。

 「よっしゃ!やってみますか!」
 覚悟を決めて降りしきる雨の中、船をひっくり返す。黒潮の水の中は温かい。講習で習ったことを思い出しながら、パドルを動かす。あっけないくらい簡単に、船は起き上がった。成功だ!!
 周りの人たちから「おおっ!!」と歓声が上がる。
 やった!これで俺も今日からイローラーだ!イローラーになるとNCKでの講習料やシーカヤック購入費が50%オフになる、ということはまったくなく、あくまでも「俺は石廊崎でロールをやったんだぜ!」と自己満足にひたれるだけなのである。それでもこれは何だかとってもうれしい経験だった。


石廊崎のすぐ下をすすむ西沢さん。

 

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